成功している地方都市で感じた(デザイン視点)「7つのキーワード」
Seven important points, designed for small city
明けましておめでとうございます。1月5日から1泊2日で松山〜今治へ。デザイン研修に同行しました。いつもお世話になっている防府市の商店街×商工高等学校の県外学習だとか。いいですね。そして私にとってはなんと初めての四国!
こんなふうに大街道という賑やかなアーケードの商店街を歩いて散策したり、昔ながらの温泉街で射的なんかにも挑戦しました(すごい下手でした笑)。道後温泉も一番下のところ(神の湯)にちょっとだけ入りましたが控えめに言って、素晴らしく良かったです。
研修の目玉である「松山アーバンデザインセンター」では、(株)まちづくり松山代表の加戸 慎太郎さんのお話が素晴らしかったので(デザイナー&デザイン関係者にとってはちょっとドキッとするお話もありましたが)本編でご紹介しますね。
いつも観光のお仕事をご一緒させていただいているご担当も一緒でしたので、雑談しながらの街歩きでいろいろ気づきもありました。簡単ではありますが忘備録的にポイントをメモしておきたいと思います。
1. 遠いと思っていたら、とても行きやすい場所だった [Accessibility]
松山へは東京から飛行機で1時間35分。
もちろん近いとは言えない距離なのですが、飛行場から市内までがタクシーで約20分(2000円ちょっと)で意外に近い&行きやすいなというのが率直な感想です。もちろん空港バスも走っています。
市内は路面電車が一律160円で市内の移動がとても楽チン。方向音痴で迷子になりがちな私もとりあえず行きたいところへは行けそうな印象です。
2. いろんなことが、わかりやすい。たとえば駅から温泉まで一本道 [User friendly]
ホテルで荷物を預けてから、早速道後温泉へ。道後温泉駅には「スターバックス コーヒー 道後温泉駅舎店」がありました。
『道後温泉駅舎店』は、伊予鉄道道後温泉駅の駅舎を一棟まるごとスターバックスとして出店します。(中略)この度、伊予鉄道が創立130周年を機に、駅の利便性向上を目的に道後温泉駅のリニューアルを行います。このリニューアルに伴い、歴史ある道後の街の新たなコミュニティの拠点となることを目指し、これからも地域の皆様に愛される存在であり続けるよう決意と願いを込め、店舗をオープンいたします。
明治時代の面影を残し文明開化の香りを彷彿とさせる洋館の佇まいを楽しむ空間として、“コーヒージャーニー“と“鉄道の旅“をアイデアソースに、コンセプトを『Line to Coffee Travel』として、お客様をスターバックスのコーヒーの世界へいざなう寛ぎの場所を作り上げました。(中略)建物に寄り添うデザインの各所に、コーヒーと鉄道のエッセンスを加え、この店舗だけの特別な時間をお楽しみいただけます。(同社プレスリリースより)
賑わいが行き交うちょっとした広場、インスタ映えしそうな時計台を横手に、お土産屋さんの立ち並ぶアーケードを抜ければそこが「道後温泉」です。
この一本道の温泉街がまた楽しい。
はっきりとした目的地である道後温泉を目指しているだけなのですが、街がコンパクトにデザインされているために途中に思わぬ発見があり、観光スポットありでストレスがありません。
3. 町に落書きがない。ゴミが落ちていない。綺麗で清潔。[Cleanliness]
ゴミ拾いや落書き消しプロジェクトの取り組みについても(株)まちづくり松山さんの講演でお話を伺いました。東京にも賑やかなアーケード商店街は数多くありますが、大街道のアーケード商店街は本当に清潔感がありました。
これらの社会的責任活動(=CSR)は、市民の「自分ごと」体験として日常化され、自分の町を愛することに繋がり、観光客にとってのよい印象につながり、またそれらの取り組みを「有償にて」視察の受け入れ申し込みを専用サイトから受付けされているそうで…
相乗効果がすごい!と思いました。
4. 古いものもあり、新しいものもある。共存共栄。[Mutual prosperity]
このような歴史的文化財に恵まれた観光地へは、公私ともに行く機会が増えているのですが、東京生まれの私などはやはり、古いだけでなく、歴史と今が共存しているところはより魅力的であると感じます。
価値観の共存については、セミナー中に幾つかの事例がありました。文化財や歴史を大切にすることは大切ですが、同時に変わりつつあるインフラや新しい取り組みの導入を妨げるような慣習は、「都市のデザイン」という意味ではひとつ間違えば命取りにもなりかねません。
当社取引先の老舗に「不易流行(変えないところは変えない、変えるところは思い切って新しくする)」を社是とする企業があり、常に挑戦を恐れないといった17代目のお話を伺ったことがありますが、松山市もまた、市内に無料Wi-Fiを整備したり、文化財や歴史を守りながら新しい取り組みに果敢に挑戦されていて見習うべきところが多いように感じました。
5. 町の歴史やストーリーが可視化されている[Visualization]
小説の舞台や謂れのある景勝地など立て札や脳書きのある観光地はよく見かけますが、写真スポットや休憩コーナーになっているのはいいですね。
道後温泉が舞台となっている夏目漱石の小説『坊ちゃん』は子供の頃、国語の教科書に載っていた気がしましたが、また読んでみようかな、と思わされました。
6.町が儲かるように工夫をし、実際に自力で利益を上げている [Commercialism]
松山市の商店街アーケードでは、「ストリートビジョン」と呼ばれるデジタルサイネージを設置し、収益化に成功しています。
最近、オウンドメディアというような言い方はあまり耳にしませんが「ストリートビジョン」のような収益性のあるメディアは、広告代理店に制作費や出稿料を支払って期間限定で広告を掲載してもらうもの(ペイドメディア)とは異なり、地域団体や地元企業に広告収入をもたらす貴重な収益源であることをしっかりと証明しています。
7. ユニークであり、唯一である [Originality]
「道後温泉」のことを調べていたら「地域団体商標」のことに触れている文献がありました。
道後温泉(どうごおんせん)は四国・愛媛県松山市(旧国伊予国)に湧出する温泉である。(中略)夏目漱石の小説『坊つちやん』(1905年)にも描かれ、愛媛県の代表的な観光地となっている。2007年8月に地域団体商標(地域ブランド)として認定された(申請者は道後温泉旅館協同組合、登録商標第5071495号)。
「道後温泉」には地域団体商標がすでにあったのですね!
昨年末、特許庁から公開された「デザイナーが身につけておくべき知財の基本」教材にもある通り、ブランド化に向けてまずはその独自性については十分に調査され、また権利については守られている前提がとても重要です。これはもちろん個人の力だけではなく、地域の人々の力の連携が必要でしょう。
CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)の非常にわかりやすい事例がここ道後温泉にはあると強く感じました。
番外)お金だけ使って役に立たなかったデザインとデザイナーのお話
さて、ここからはちょっとデザイナーやデザイン関係者には耳に痛いお話です。
(株)まちづくり松山代表の加戸 慎太郎さんは講演の最後の方で、以前、十数億以上に及ぶ予算を使いながら、収益化にも貢献できず、悲惨な結果に終わった某デザインプロジェクトがかつてあり、そういった成果が期待できない「デザイン」に対しては批判的であるという厳しいご指摘をされました。
個人的な体験ですが「視覚マーケティング」「売れるデザイン」「持続継続のためのブランディング」といった(成果をあげるデザインをテーマにした)講演で地方都市にお伺いする際にも、こういった『お金をかけたにもかかわらず成果の出なかった残念なデザインプロジェクト』のお話を聞くことがあります。
そして、そのような状況を目の当たりにされた多くの方が「デザイン」や「デザイナー」に対して、残念ながら不信感をいただいていると感じました。
私たちには他人や過去を変えることはできませんが、今、関わり合いのある手元の仕事で成果を出してデザインで収益を上げること、デザインを資産にすること、またデザインで問題解決をすることは可能ですね(ここではこれ以上触れません、皆で行動で結果を出しましょう✨)。
8. おまけ
今治タオル美術館にも行きました。
#インスタ映えは、やはり重要。女子高生もそれ以外もたくさんのシャッターを切っていました。
さらに、ネーミングの勝利(今治タオルショッピングセンターとはせずに「美術館」をフィーチャーしているところがすごい!)を実感。
帰り道の「しまなみ海道」も素敵でした。また、機会があれば訪れてみたいです。銀座商店街の皆様、防府商業高等学校の黒川クラスの皆さん、大変にありがとうございました。
参考
まちづくり松山
▷http://machi-matsuyama.com/
大街道商店街公式ホームページ
▷https://www.okaido.jp/
道後温泉公式
▷https://dogo.jp/
タオル美術館
▷www.towelmuseum.com/
しまなみ街道観光マップ
▷http://www.go-shimanami.jp/